PROJECT STORYジャガー・ランドローバー社
サーボタンデムライン
導入プロジェクト

世界トップレベルの高速生産力と、独創的で繊細なデザインを実現する成形力、サーボプレスならではの省エネルギー性能が高く評価され、国内外の自動車メーカーに導入されている大型サーボタンデムライン。その根幹技術であるサーボモータとともにアイダエンジニアリングの名が世界中に知れ渡るきっかけとなったのが、英国の高級車メーカー・ジャガー・ランドローバーから受注した車体用パネルの成形ラインだ。開発、設計、導入に携わったチームのメンバーが、アイダ史上に残るプロジェクトを振り返る。

PROJECT MEMBER
AIDA S.r.l. UK Branch(英国)
2008年入社
担当期間:2016~2021年 デビッド・ティアニー
AIDA S.r.l.(イタリア)
2006年入社
担当期間:2012~2016年 松本 浩幸
技術本部 機械設計部
2009年入社
担当期間:2013~2017年 富田 純
技術本部 システム制御部
2003年入社
担当期間:2013~2017年 八幡 修
技術本部 機械設計部
2008年入社
担当期間:2013~2017年 廣橋 佑太朗

※社員のインタビュー内容・所属等は取材当時のものになります。

概要
複数のプレス機と搬送装置で構成された
全長80mにおよぶ生産ラインを同期制御する。

アイダエンジニアリングがジャガー・ランドローバー(以下:JLR)から受注したサーボタンデムラインは、5台のプレス機、6台のプレス間搬送装置、材料供給装置、製品搬出装置で構成している。タンデムラインはこれらを高速で同期制御するシステムで、その根幹である大容量・低速・高トルクのサーボプレス用モータはアイダエンジニアリングが独自に開発したものだ。
用途はアルミおよびスチール製車体用パネル(ボンネット、ドア、ルーフなど)とその内側の補強部品のプレス加工で、1つのラインは全長約80m、高さは約13mという規模で総工費は数十億円。2014年にJRLの英国工場に導入され、現在までに英国向け3ライン、中国向け2ラインを受注。すべて安定稼働している。

海を渡ったPMとエンジニアが感じた
今までのプロジェクトとの大きな違い。

英国からいつ電話しても出てくれる
仲間の存在が本当に心強かった。

「受注に関しては、サーボモータを独自開発したアイダの技術と、日本の自動車メーカーに対する導入実績が評価されたのだと思っています。でも設計段階での要求は想像以上に厳しかったです。課題に対する回答のクオリティ、スピードとも、今までに経験したことがないレベルでした」
そう話すのは、プロジェクトマネージャーとして英国オフィスに常駐し、JLRとイタリア、日本の設計担当を繋ぐ窓口役も務めたティアニーだ。

「この規模になるとラインが安定するまで時間がかかりますので、引き渡し後も緊張感を維持してお客様からの問い合わせ対応にあたっていました。そのなかで改めて感じたのは当社の設計担当者の責任感と志の高さ。時差があるので電話で話せる時間は限られているのですが、いつ電話しても出てくれて、丁寧に説明してくれる仲間がいることが本当に心強かったです。日本とはお金や仕事に対する考え方が大きく違うドイツ、イタリアのサプライヤのマネジメントなど、困難な仕事はたくさんありましたが、仲間に支えられ、諦めずに取り組むことで成長できたと思っています」

日本とは異なる高度な安全規格への対応を
みんなと気持ちをひとつにして完了した。

プレス機の機械設計を担当した松本は、欧州仕様のサーボプレスのラインナップ化というミッションを遂行するために着任していたイタリアオフィスで、イタリア人を含む4名の技術者とともにアサインされた。
「自動車メーカー向けタンデムラインの設計は国内で経験していましたが、欧州と日本では安全に対する考え方が違います。そのため、センサの設定やプレス機の制御においては欧州のセーフティアセッサ(国際安全基準に基づく機械設計の資格取得者)や第三者機関の協力が不可欠でした。また、ティアニーが言ったようにサプライヤの仕事や考え方も日本とは違うので、設計以外の業務に時間を取られることが多かったですね」

その一方で今までにない充実感も感じたという。
「材料の規格違いによる図面の見直しなどの厳しい局面を、日本から応援に来てくれた仲間、イタリア人の技術者と気持ちをひとつにして乗り越えていくのが楽しかったです。海外に出て仕事をする醍醐味を改めて知ったプロジェクトと言えますね」

海外案件の経験が豊富な制御系技術者と
3次元CADのスペシャリストの挑戦。

課題解決をリモートで継続する難しさより
多国籍の技術者と繋がる楽しさの方が
大きかった。

「海外向けの生産ラインはそれまでに何度も経験していましたが、このプロジェクトにアサインされた瞬間は大変なことになったと思いました。JLRは世界で最も有名な自動車メーカーのひとつ。受注する日が来るなんて、考えたこともなかったですからね」
そう振り返るのは制御設計を担当した八幡だ。5台のプレス機と6台のプレス間搬送装置で構成されるラインをコントロールする制御プログラムの開発が彼の仕事だった。

「制御設計チームは5名で編成され、設計は日本のアイダ本社でおこない、ラインの立ち上げと引き渡し後の運転調整時は英国に滞在しました。現地ではティアニーが通訳を務めてくれましたし、彼が不在のときも身振り手振りを交えて気持ちを表すと伝わったのでコミュニケーションで不自由を感じたことはなかったですね。感激したのは初めて現地の工場へ入ったとき。自分が作成した図面が全長80mという圧倒的なスケールで形になっているのを見た瞬間、この会社の技術者で本当に良かったと思いました。帰国後、リモートで課題の対応を継続するのは想像以上に難しかったですが、英国、フランス、インド、中国など、現地で知り合った多国籍の技術者たちと繋がり、解決をめざす楽しさの方が勝っていました」

高度な仕様のハンドリングツールが
6台の機械と連動して動く瞬間に立ち会えた。

八幡とほぼ同時期に本社と英国オフィスを行き来し、搬送装置の機械設計をおこなっていたのが富田だ。役割は2つあった。1つは、コントローラと3D描写ソフトをリンクさせて成形ラインの動きをお客さまに確認していただくためのモーションシミュレータの開発。そしてもう1つが、新機構のハンドリングツールの設計。これはアームの先端に新型のバキューム機能を搭載したロボットで、2本目の中国向けラインの仕様書に追加されていたものだ。

「上司は3DCADのスキルを評価して声をかけてくれたのだと思いますが、あまりにも突然で、しかもJLRですからね。アサインされたときは青天の霹靂という心境でした。特に難しかったのはハンドリングツールの設計ですね。仕様書には大きさ、重量、速度が明記されており、お客さまの要求レベルもかなり高度だったので何度も打ち合わせを重ねて仕様を固めていきました。時間がかかった分、英国の工場で6台の機械と連動して動くのを確認できた時はうれしかったですね。英国での生活は初めてでしたが、ティアニーがすべて整えてくれていたので快適でした。アイダの英国オフィスはリバプールやバーミンガムといった都市に近く、ロンドンへも1日で行ける距離。休日は観光を楽しめましたよ」

終盤で加わり、新たなミッションを担った
機械系エンジニアの苦悩と成長。

新規開発したディスタックフィーダが
中国の工場で稼働したときの感動を忘れない。

このなかで最も遅くプロジェクトに加わったのは廣橋だ。同時期に他の取引先のタンデムラインに組み込む搬送装置の設計を担当していたためだが、その任務を完了後、JLRの中国向けライン(2本目)にアサインされた彼を待っていたのは、ディスタックフィーダの新規開発というきわめて難度の高い仕事だった。
「ディスタックフィーダは、指定サイズに切断加工して積み重ねたシート材を一枚ずつ剥がして次工程の機械に供給する装置です。当初、JLRのラインには客先指定の他社の装置を組み込んでいましたが、2ライン目の受注の際、お客様から他のメーカーの装置にして欲しいとの話があり、それならアイダで開発しようとプロジェクトが発足しました。当社にとっても大きな挑戦となりました。私にも“やってみないか?”と声が掛かったので早速、石川県の白山事業所へ移り、プロトタイプの開発に取りかかりました」

最大のポイントはアルミのような非磁性体のシート材をどう剥がし、どう運ぶかだった。
「コンセプトや理論、仕組みは先輩たちが固めてくれていたので、私は実装技術の開発に専念できたのですが、思うように性能が上がらず試行錯誤の日々が続きました。それまで担当してきた仕事でも困難に直面したことは何度もありますが、このときほど先が見えない状況が続いたことはなかったですね。だから社内展示会で高い評価を得たときは本当に嬉しかったですし、開発したフィーダが中国の工場でシートを運ぶのを見たときの感動は、この先も忘れることはないと思います」

世界最先端のタンデムライン開発に携わった
プロジェクトメンバーが得たもの、
伝えたいこと。

関わった時期が多少は異なるものの、4~5年にわたってこのプロジェクトに心血を注いだ5人。初めて直面した困難を乗り越えながら、彼らは何を得たのだろうか。
「いちばんの収穫は、機械や設備の安全性に関する欧州の考え方を学べたこと。今、このメンバーで新たな海外プロジェクトを進めていますが、イタリアで得た知識と技術をすべて活かせている実感があります」(松本)
「ラインに問題が発生するときは必ず予兆がある。それを感じとることも技術者の役割なのだと学びました。今後、成形ラインの監視・見える化を進めるうえで役立てていこうと思います」(八幡)
「設計した機械に接続される装置の構造や動きを理解するために電気や制御など専門外の分野も学ぶ必要がありました。視野を拡げながらスキルアップできたと思います」(富田)
「複数の高機能な装置を高速で制御するのがサーボタンデムライン。ライン全体を把握していなければ個々の装置で発生する問題を解決できない。それを教わったプロジェクトでした」(廣橋)
そしてプロジェクトマネージャーを務めたティアニーは「サーボタンデムラインという最先端技術に携われたことが誇り」と言い、英国で5年間、家族と一緒に過ごすうちにやりたいことができたと話す。
「日本では英語を学ぶことに消極的だった子どもたちが、現地で楽しそうに学んで成長していく姿を見て、アイダのグローバルな事業に魅力を感じて入社した新人や若手社員をサポートしたいと考えるようになりました。皆さんも今の状況では海外で仕事をする自分をイメージするのは難しいかもしれませんが、コミュニケーション力を磨いて準備をしておけば、いつかきっと世界で活躍できる日が来る。そう伝えたいですね」

米国の自動車メーカー向けのプロジェクトが進行中。

JLRのサーボタンデムラインは英国向け、中国向けとも安定稼働しており、お客さまの問い合わせや応対やメンテナンスは現地オフィスの技術者が担当しています。その後、このプロジェクトのメンバーは米国の自動車メーカーに最新のサーボタンデムラインを導入するため再び集結。2020年入社の若手エンジニアもアサインされています。現在は国内でプレス機や搬送装置の設計を進めており、2022年には現地で導入準備をスタートする予定です。